近所の庭先や公園に。通勤電車から毎日眺める並木道に――。
わたしたちの誰もが、知らず知らず心に留めている。そんな桜の木があるのではないでしょうか。その一本に花が咲くときに春の訪れをふと気づかされ、そしてまたたく間に散る姿に切なく心を絞られるような、桜の木が。
それを美しいと思うのは、古より伝えられた価値観であるのと同時に、その桜が、たった今、わたしたちの目にしか見えないものだからでもあります。薄い桜の花びら一枚一枚には、永遠に続いてゆく美しさと、刹那の美しさとが幾層にも重なっているのです。
桜。それは、大森克己が10年以上にわたって撮り続けているモチーフです。
2011年の春、大森は、自らの住まいや仕事場付近から福島へと旅に出て、桜をフィルムに収めました。ランダムに入る淡いピンクの光は、その桜が、さらに言えば、世界が初めて体験することの集積であると静かに告げています。当然のようでいて、忘れている。大森の4年ぶりの東京での展覧会となる本展は、そのことを改めて噛みしめる機会となるはずです。
“初めて”のことたちが連なって、私たちの歴史をつくっていく――。桜を美しいと思う未来のために、今この瞬間の美しさと、それが留めおかれるであろう長い時間を真剣に見つめるべき時なのではないでしょうか。

≪東京都港区≫

≪福島県福島市≫

≪福島県南相馬市≫
■開催期間:2011年12月15日(木)~2012年1月29日(日)
■会場:ポーラ ミュージアム アネックス
■ホームページ:http://www.pola.co.jp/m-annex/
■住所:東京都中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
■お問合せ先:03-3563-5501